『異人たちとの夏』(山田太一原作・市川森一脚本・大林宣彦監督・松竹1998年)

(*N大学運営SNSの筆者アカウントへの投稿を一部編集し掲載しています)

 映画『異人たちとの夏』(松竹・1988年)を観た。東京下町の昭和の空気が丁寧に描かれていて、画像の隅々にまでその風物が息づいているのに魅了された。

 風間杜夫が演じる人生に草臥れた中年男性が、12歳のときに交通事故で失った片岡鶴太郎と秋吉久美子が演じる父母と、子供の頃に住んでいた今では廃屋になった木造アパートの一室で再会しそこに夜な夜な通っては父母とこの間の空白を埋めるかのように茶の間の団欒を重ねる。同時に、名取裕子が演じる自殺した若い女性と主人公との許されない恋とが同時進行する。

 僕は江戸時代に書かれた『雨月物語』と『牡丹灯篭』とを下地に、怪奇映画と松竹大船撮影所調の家族映画とが混然と融和した作風とみましたが、何とも魅力的な映画でした。

 なかでも僕が一番引かれたのは、親子3人が夏の浅草を設定した木造アパートの部屋で過すシーンだった。ステテコ姿の父親とシミーズ姿の母親、そしてランニングとパンツ姿の子供の団欒が再現されていた。昭和30、40年代の東京下町の風物がそこには活き活きと描かれていた。

 また、出演者がみんな若いのもとても新鮮だった。若き秋吉久美子、名取裕子は本当に魅力的。今にして思えば、彼女らとほぼ同じ時期に青春時代を過したのだが、当時は彼女らの魅力に気付かなかった。

 亡き親と、昔一緒に暮らした家で再会できたら、どれだけ嬉しく幸福だろうか。だがその後に訪れる詠決は、余りにも切なく悲しい。とても観る者の胸を打つ。


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